過日、山梨の自坊に帰った折に「万引き家族」の先行上映を見ました。観客が中高年ばかりだったのが残念でした。重いテーマですが、いや重いテーマだからこそ、若い人にも見てもらいたかったですね。「万引きを助長する」との意見を目にしますが、「万引き」がテーマではないことは最後まで見れば分かることです。祖母の家と年金と、父親と息子の万引きによって生計を支えている家族です。そういう極端な状況設定によって家族のあり方について問題提起しています。民族を超えた万国共通のテーマだからこそ、カンヌ映画祭で評価されたのではないでしょうか。祖母、父、母、長女、長男、次女の6人家族という体裁をとっていますが、6人全てが赤の他人の寄り集まりです。それぞれが訳ありで、一見するとインモラルな結びつきではありますが、他人同士が並の家族以上に強い愛情と絆に結ばれて暮らしています。貧しくはありますが、貧しさを苦にもせず、お互いを思いやり、生活を楽しんでいる。実親に虐待されていた「次女」は愛着障害に陥っていたのだが、ここで癒され、元気を回復し、心を開くようになる。実の家族とうまくいっていない「長女」にとっては駆け込み寺的な場所になっている。こんな皮肉はない。しかし、この蜃気楼のような生活は長続きしない。男の子がわざと万引きを失敗したからだ。「家庭」はバラバラに空中分解してしまう。「父」はアパートで独り暮らし、「母」は「祖母」の死体遺棄の罪をかぶって逮捕され、「長女」は不明、「長男」は施設入所、「次女」は実親のもとに返され、また、虐待が始まり、心を閉ざしてしまう。それでも短期間ではあったが、非日常的な生活は彼女に多少なりとも生きる力を与えたのではないでしょうか。彼女が団地の外廊下で一人遊びをし、誰かに呼ばれたような気がして手摺から身を乗り出すラストは涙なしには見られませんでした。